「小規模宅地等の特例」は、相続税の課税対象となる宅地等を用途別に区分し、一定面積まで大幅な評価減を認める制度です。
なかでも〈特定事業用宅地等〉は、被相続人(または生計を一にする親族)が営んでいた製造業・小売業・医療業などの事業用土地を対象とし、400㎡まで評価額を20%(▲80%)に圧縮できるインパクトの大きい区分です。
ただし「貸付業は対象外」「申告期限まで事業の用に供する」といった落とし穴が多く、判定を誤ると適用が受けられません。本記事では令和7年5月現在(2025年5月)で有効な法令・通達をもとに、要件・注意点・最新改正の影響をやさしく解説します。
ポイント | 内容 | イメージ |
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評価減の割合 | ▲80%(評価額20%) 例:評価額5,000万円 ⇒ 1,000万円 |
相続税▲600万円 ※税率15%想定 |
限度面積 | 400㎡まで 他区分との合計で適用上限730㎡ |
敷地20m×20mの中規模工場 等 |
対象土地 | 製造・卸売・小売・医療・サービスなど 貸付業は除外 |
町のパン屋・診療所の敷地 等 |
主な要件 |
① 相続開始時に事業の用に供されている ② 取得した親族(=※相続人等)が申告期限(10か月)まで引き続きその宅地等を事業の用に供する ③ 「小規模宅地等の特例明細書」等を添付 |
相続人がそのまま店舗を使用 |
※②は「同じ事業」である必要はなく、宅地等を引き続き何らかの事業の用に供していれば足ります(措法69の4③、措令40の2①三)。
※相続人等とは相続または遺贈により宅地等を取得した被相続人の親族(法定相続人以外の親族も含む)をいいます。取得者が申告期限前に死亡した場合は、その死亡日まで継続していれば要件を満たします(措令40の2)。
※生計を一にする親族とは、日常生活の資金を共通にし、家計が一体となっている配偶者・子・兄弟姉妹などを指します(相基通69の4-2)。必ずしも同居は要件ではありませんが、同一生計かどうかを客観資料(通帳・生活費負担割合 等)で説明できるようにしましょう。
区分 | 適用限度面積 | 評価減 | 相互調整 |
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特定居住用宅地等 | 330㎡ | ▲80% | 合計730㎡が上限 |
特定事業用宅地等 | 400㎡ | ▲80% | |
貸付事業用宅地等 | 200㎡ | ▲50% |
例えば、自宅敷地330㎡と工場用地400㎡を相続する場合、合計は730㎡=上限ピッタリなので両区分ともフル活用できます。
ケース | 土地の条件 | 土地以外の遺産 | 相続人 | ||
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路線価 (1㎡) |
地積 | 評価方法 | |||
A:都市部クリニック | 30万円 | 350㎡ | 路線価 × 地積 | 5,000万円 | 子 2人(各1/2) |
B:郊外工場+自宅 | 15万円 |
工場 300㎡ 自宅 330㎡ |
路線価 × 地積 | 2,000万円 | 子 2人(各1/2) |
※地積のうち工場用地は〈特定事業用宅地等〉、自宅は〈特定居住用宅地等〉として計算します。
※配偶者はおらず、配偶者税額軽減・未成年控除・障害者控除等は考慮していません。
ケース | 遺産総額 (特例前) |
遺産総額 (特例後) |
課税遺産総額 | 相続税総額 | 節税額 | ||
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特例前 | 特例後 | 特例前 | 特例後 | ||||
A | 1億5,500万円 | 7,100万円 | 1億1,300万円 | 2,900万円 | 1,990万円 | 335万円 | ▲1,655万円 |
B | 1億1,450万円 | 3,890万円 | 7,250万円 | 0円 | 1,050万円 | 0円 | ▲1,050万円 |
基礎控除以下まで評価額を圧縮できると、相続税ゼロに到達する例もあります。
※課税遺産総額 = 遺産総額 −(3,000万円+600万円×相続人2人=4,200万円)。
累進税率は国税庁「相続税の速算表」10%〜55%を使用。
実際は遺産分割方法・各種控除により変動します。
よくあるケース | 回避策・留意点 |
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相続直前に休業し賃貸へ転用 | 転用時点で貸付業扱い ⇒ 対象外。 少なくとも相続まで本業継続、または相続後すぐ再開を。 |
申告期限前に用途変更 | 10か月以内の廃業・売却は取消しリスク。 やむを得ず移転する場合は「実態が引き続き事業用か」入念に証拠化。 |
法人成り直後に相続発生 |
土地を同族会社へ貸している場合は〈特定同族会社事業用宅地等〉(400㎡・▲80%)の判定へ切替。 被相続人(または相続人)が株式50%超+役員か要確認。 |
ご注意 本記事は令和7年5月(2025年5月)現在の法令・通達に基づき作成しています。今後の改正や個別事情により取扱いが変わる場合があります。最終判断は必ず税理士等の専門家へご相談ください。