生前贈与の「加算」と「贈与税額控除」

お知らせ, 贈与税

― 贈与財産の加算と贈与税額控除(暦年課税)の総まとめ ―

相続対策で生前贈与を活用するご家庭は少なくありません。しかし「贈与=必ず節税」とは限りません。
相続開始前の贈与には、次の二段構えのルールがあるためです。

  1. 贈与財産の持ち戻し(加算) … 相続税の課税価格にプラス
  2. 贈与税額控除 … 加算対象贈与に課された贈与税を相続税から差し引く

令和6年(2024年)改正で加算期間が最長7年へ段階的に延長され、実務への影響は大きくなりました。本記事では最新制度を踏まえ、贈与財産の加算と贈与税額控除をわかりやすく整理します。


1 生前贈与「加算」とは?

※ 相続税法19・租特70‑2
ポイント 内容
対象者 被相続人から相続人等暦年課税で受けた贈与※1
加算方法 贈与時の価額をそのまま相続財産へプラス
趣旨 生前贈与と相続をトータルで課税し、課税の中立性を確保

※1 相続時精算課税で受けた贈与は、別途相続税法21‑15に基づく持ち戻し規定が適用されます。


2 加算期間は段階的に7年へ

※ 死亡前4〜7年部分には総額100万円控除(経過・恒久措置)
相続開始日 加算対象となる暦年贈与 補足ポイント
〜2026/12/31 死亡前3年以内 従来ルール
2027/1/1〜2030/12/31 2024/1/1〜死亡日
(最長7年・最短4年)
4〜7年分は合計100万円控除
2031/1/1〜 死亡前7年以内 同控除が恒久化

100万円控除とは

死亡前4〜7年の暦年贈与については、加算総額から一律100万円を控除して課税価格に算入します。小規模な贈与継続を配慮した措置です。


3 加算対象外になる贈与


4 贈与税額控除の計算式

相続税額計算の最終段階で、次の式により既納贈与税額を控除します。

控除額 = (各人が加算した贈与財産価額 ÷ 各人の課税価格) × 各人の相続税額 - 加算財産に対応する贈与税額

【ケーススタディ】現預金8,000万円+小規模贈与の場合(2029年相続開始)

※ 死亡前4〜7年部分には100万円控除を適用

項目 長男 A 長女 B
加算前の相続財産 4,000万円 4,000万円
加算される贈与額 200万円 80万円
課税価格(加算後) 4,200万円 4,080万円
按分後の相続税 259.7万円 252.3万円
贈与税額控除 ▲4.4万円 ▲5.0万円
納付相続税額 255万円 247万円
合計 502万円

5 つまずきやすい3つのポイント

ケース リスク 対策
贈与契約書を紛失 証拠不足で二重課税の恐れ 契約書・通帳コピーを10年以上保管
毎年110万円贈与を継続 2027年以降は3年超分も加算 高齢の場合は相続時精算課税も検討
贈与税を未申告 無申告加算税+控除不可 必ず申告・納税

6 相続開始後の手続フロー

  1. 被相続人の過去7年分の暦年贈与をリスト化
  2. 3年超部分は「贈与日・価額・100万円控除」を判定
  3. 贈与財産の加算明細書を作成し相続税申告書に添付
  4. 既納贈与税額を控除して相続税を計算
  5. 控除しきれない贈与税があっても還付なし

7 よくあるQ&A

Q1 110万円以内の贈与なら相続税は増えませんか?
A 増える場合があります。 110万円以下でも加算対象だからです。ただし死亡前4〜7年分の合計100万円は控除されます。

Q2 孫への贈与は加算されますか?
A 孫が法定相続人でない限り原則加算されません(養子縁組などで相続人となれば対象)。

Q3 相続時精算課税を選択後に暦年課税へ戻せますか?
A 途中変更はできません。選択は慎重に行いましょう。


まとめ


参考リンク


ご注意
本記事は令和7年5月現在の法令・通達等に基づいて作成しています。今後の改正や個別事情により取扱いが変わる場合がありますので、最終的な判断は必ず税理士等の専門家へご相談ください。

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