小規模宅地等の特例〈貸付事業用宅地等〉をやさしく解説

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― 小規模宅地等の特例〈貸付事業用宅地等〉をやさしく解説 ―

◆ 小規模宅地等の特例〈貸付事業用宅地等〉とは?

「小規模宅地等の特例」は、事業や生活の拠点となる土地について、相続税の負担を大幅に軽減し事業承継や生活基盤の維持を図るために設けられた制度です。
中でも〈貸付事業用宅地等〉は、賃貸アパート・駐車場など不動産貸付業に使う土地が対象となり、評価額を最大50%に減額することで、後継者が過大な相続税で事業を断念するリスクを抑えられるようにしています。
制度は「一定面積まで半額評価」というシンプルな仕組みですが、3年以内に始めた貸付は対象外 など細かな除外規定があるため、正しく理解しないと適用を受けられないことも少なくありません。
本記事では、要件・注意点・節税効果をやさしく解説しますので、ご自身やご家族の相続対策の参考にしてください。
適用の可否や最新情報は国税庁タックスアンサーで必ずご確認ください。


1.制度のしくみをざっくり把握しよう

ポイント 内容 イメージ例
評価減の割合 ▲50%(半額評価)
例:評価額4,000万円 → 2,000万円
相続税約300万円の節税
※税率15%想定
限度面積 200㎡まで(約60坪)
超えた部分は通常評価
20m×10mの中規模アパート敷地
対象となる土地 賃貸アパート・マンションの敷地/月極駐車場/トランクルーム など 家賃や駐車料を継続的に受け取る土地
3年以内貸付の除外 相続開始前3年以内に貸付開始した土地は原則対象外
ただし5棟10室以上など事業的規模(特定貸付事業)を3年超継続していればOK
( 被相続人が既に20室アパートを10年以上経営し、その敷地を拡張する形で相続開始2年前に駐車場を開設した場合など )
小規模駐車場→NG/
20室アパート→条件次第でOK

2.適用できる?5つのチェックリスト

  1. 被相続人または生計一親族が貸付事業として利用していた土地
  2. 相続税申告期限(10か月)まで貸付を継続している
  3. 申告期限まで土地を保有し続ける(売却・転用NG)
  4. 相続開始前3年以内貸付宅地に該当しない
    └ ただし特定貸付事業なら3年要件をクリア
  5. 申告書に特例明細書+賃貸契約書・賃料入金通帳写し等を添付

3.評価減でいくら節税?(ケーススタディ)

路線価
(1㎡)
土地面積 特例前評価額 特例後評価額
(▲50%)
節税額
※税率15%
20万円 200㎡ 4,000万円 2,000万円 約300万円

上限面積200㎡内なら、路線価が高いほど節税効果が大きくなります。

※ 実際の税率は遺産総額・相続人の数で変わります。


4.つまずきやすいケースと回避策

ケース 回避策・留意点
相続直前に駐車場へ転用 「3年以内貸付」に該当し対象外。
早めに貸付事業を開始するか、3年超継続してから相続を迎える。
アパートの一部を自宅へ改装 自宅部分は対象外となり按分計算が必要。
自宅部分の面積割合を把握し、納税資金を事前に確保しておく。
相続後すぐ賃貸契約を解約 継続要件違反で特例が取り消しに。
最低でも申告期限(10か月)までは貸付を継続する。

5.申告までの流れと必要書類

  1. 相続開始(被相続人の死亡)
  2. 財産確定+貸付実態資料(契約書・賃料入金記録など)を収集
  3. 相続税申告書小規模宅地等の特例の明細書を作成
  4. 10か月以内に税務署へ提出・納税
  5. 申告後も賃貸事業・土地保有を継続(途中解約・売却は取消し)

6.つまずきやすいポイント

* 3年以内貸付の除外規定は要注意
* アパート併用住宅では自宅部分の割合により評価減が縮小
* 相続直後に売却や用途変更をすると特例取消し
* 書類不足(契約書・通帳コピーなど)で否認されやすい


7.よくある質問(Q&A)

Q1 200㎡を超えている土地は特例をまったく使えませんか?
A ご安心ください。超過部分だけが対象外になる仕組みです。
たとえば敷地が300㎡ある場合、200㎡までは評価額を50%減、残り100㎡は通常評価。
結果として全体で約33%前後の圧縮効果が期待できます(路線価が一律の場合)。
なお、相続人が複数いて面積を分割取得する場合は取得持分ごとに按分して判定します。

Q2 被相続人ではなく家族(例:長男)名義の駐車場でも適用できますか?
A 名義が家族でも「被相続人または生計一親族」の貸付であれば対象になり得ます。
ポイントは相続税申告期限までその土地で貸付事業を継続しているかどうか。
たとえば父親が死亡し、長男名義の土地を父が借り上げて月極駐車場としていたケースでも、長男(相続人)がそのまま駐車場経営を続ければ要件クリア。
逆に名義だけ家族で実態は貸付なしだと適用されません。

Q3 相続後すぐにアパートを大規模修繕しても大丈夫ですか?
A 修繕自体は問題ありません。
ただし、工事期間中に入居者を全員退去させ家賃収入がゼロになると「貸付事業を継続」していないとみなされるリスクがあります。
◎ 工事中も短期契約で仮住まいを提供する
◎ 段階的に改修し賃貸を途切れさせない
といった工夫で収入途絶を防ぐと安心です。
なお、修繕費用を賃料で回収できないまま何年も空き家状態が続くと税務署から貸付意思を疑われる恐れがあるため、計画的に進めましょう。

Q4 区分所有マンション1室だけを賃貸している場合でも対象になりますか?
A 原則は「対象になる」と考えて構いません。マンション1室を貸すと、土地は敷地権(共有持分)という形で持っています。
この持分部分が「貸付事業用宅地等」に該当し、200㎡の限度面積に持分按分後の面積でカウントされます。
ただし、相続開始前3年以内に賃貸を始めた場合で、かつ「5棟10室」などの事業的規模(特定貸付事業)に該当しないと除外される点に注意してください。

Q5 土地が夫婦共有名義(各50%)ですが、特例はどうなりますか?
A 相続対象は亡くなった方の持分だけです。
例えば、土地全体300㎡を夫婦50%ずつ共有し、夫が死亡した場合、特例の面積判定に用いるのは300㎡ × 50% = 150㎡。限度200㎡以内なので評価額の50%減がフルで適用できます。
片方の持分を生前贈与などで調整しているケースは、「誰の持分が何㎡相当か」を必ず確認しておきましょう。


8.まとめ


参考リンク

ご注意 本記事は令和7年5月現在の法令・通達等に基づいて作成しています。今後の改正や個別事情により取扱いが変わる場合がありますので、最終的な判断は必ず税理士等の専門家へご相談ください。